深夜2時。静まり返った部屋に、僕の愛機から放たれる「ブォォォォォーン!」という断末魔のようなファン音が響き渡りました。画面上のFPSはガタ落ち。恐る恐るCPU温度を確認すると、そこには「98度」という、お湯が沸騰する寸前の数字が叩き出されていました。
原因は分かっています。数年前に塗ったきりのCPUグリスが、おそらく砂漠の土のようにカピカピに乾いている。今すぐ塗り替えなければ、僕の10万円以上かけた相棒は、ただの「光る粗大ゴミ」になってしまう。
でも、手元にグリスがない。Amazonをチェックしても、届くのは最短で明日の夕方。
「明日まで待てない。今すぐこの熱を何とかしたい……」
そんな極限状態の僕の脳裏をよぎったのは、先日ダイソーの工具コーナーで見かけた、あの「110円のシリコングリス」でした。自作PC歴10年、これまで「グリスはケチるな」を家訓にしてきた僕が、ついに禁断の領域に足を踏み入れることになったのです。
1. 100均シリコングリスという「禁断の果実」
翌朝、開店と同時に近所のダイソーへ駆け込みました。工具コーナーの隅っこ、ペンチやドライバーに紛れてそれはありました。
「シリコングリス 10g 110円」
パッケージには「潤滑・放熱に」と、あまりにもあっさりした説明。PCパーツショップで売っている「クマさん(Thermal Grizzly)」や「シミオシ」といったブランド品なら、1gで1,500円は下りません。それに対して、10gで110円。単価にして100倍以上の差です。
「これ、本当に塗って大丈夫か? 溶け出してマザーボードがショートしないか?」
「そもそも、ただの白い油なんじゃないのか?」
レジに向かう足取りは、これまでにないほど重かった。110円の買い物でこれほど緊張したのは、人生で初めてかもしれません。
2. 【実録】110円のグリスと格闘した、ベタベタの30分間

帰宅後、さっそくオペを開始します。サイドパネルを開け、巨大な空冷クーラーを取り外すと、そこには予想通り、ひび割れて粉を吹いたかつての高級グリスの成れの果てが。
「今までありがとうな……。でも、今日からお前の代わりは100均だ」
申し訳ない気持ちで古いグリスを拭き取り、いよいよダイソーグリスを投入します。
衝撃のテクスチャー:これは「ラード」か?
チューブを絞り出すと、中から出てきたのは、予想以上に「モッタリ」とした白いペースト。
高級グリスが「しっとりした高級ハンドクリーム」だとしたら、これは「冷蔵庫から出したばかりのラード」。とにかく伸びが悪い。
ヘラで伸ばそうとすると、CPUの表面に吸着せず、ヘラの方にくっついてくる。
「おい、ふざけるなよ……!」
気づけば指先は真っ白。このベタつきがまた厄介で、石鹸で洗ってもなかなか落ちない。100均の洗礼は、性能以前に「使い勝手の悪さ」という形で僕を襲いました。
結局、30分近く格闘して、なんとか「それっぽく」塗り広げることに成功。この時点で、僕はすでに「やっぱりAmazonでいいやつ買えばよかった」と後悔し始めていました。
3. 運命の起動。100均グリスは「救世主」になれるのか?
クーラーを再装着し、震える指で電源ボタンを押します。
「頼む、爆発しないでくれ……」
BIOS画面が立ち上がります。注目の温度表示は……。
「32度」
「……えっ?」
思わず声が出ました。冷えている。それも、以前使っていた数千円のグリスの新品時と、ほとんど変わらない数字です。
負荷テスト:Cinebenchを回してみた
「アイドル時が低いのは当たり前だ。負荷をかけたらどうせ……」
そう毒づきながら、CPUをフル稼働させるベンチマークソフトを起動。ファンが唸りを上げ、グラフが上昇していきます。
- 1分経過: 60度。安定。
- 5分経過: 72度。……え、止まった?
- 10分経過: 最高温度75度。
完走しました。以前の「98度」が嘘のように、110円のグリスはしっかりと熱をクーラーへと伝えていたのです。
「マジかよ……。僕が今までグリスに注ぎ込んできた数万円は何だったんだ?」
嬉しい反面、自分の「こだわり」が110円に否定されたような、複雑な敗北感を味わいました。
4. 100均グリスを使って分かった「3つの不都合な真実」
検証結果だけを見れば「100均で十分」となりますが、実際に使ってみると、やはり「100円には100円の理由」があることも痛感しました。
① メンテナンス性が「最悪」に近い
前述の通り、とにかく伸びが悪く、塗りづらい。そして、掃除がしにくい。
次にグリスを塗り替える時、このベタベタを拭き取るのにどれだけ苦労するかを考えると、今から気が重くなります。
② 「経年劣化」という見えない恐怖
ブランド品のグリスは、数年経っても性能が落ちにくい「耐久性」にコストをかけています。
一方で100均グリスは、おそらく数ヶ月でオイル分が分離し、カチカチに固まる可能性が高い。つまり、「頻繁に塗り替えるズボラじゃない人」限定の選択肢なのです。
③ そもそも「放熱用」じゃない場合がある
ここが一番怖い。100均には「放熱用」の他に、ネジの潤滑などを目的とした「シリコングリス」も売っています。
もし間違えて潤滑用をCPUに塗ってしまったら、それは「断熱材」を塗っているのと同じ。PCは即座に熱死します。パッケージの「放熱」という文字を、血眼になって確認する必要があります。
5. 100均 シリコングリス 代替品をAmazonと楽天で探す

100円ショップ以外でも、オンラインショップで手軽に購入できるシリコングリスやCPUグリスをご紹介します。用途や必要量に合わせて、Amazonや楽天で比較検討する際の参考にしてください。
| 商品名 | 主な用途 |
|---|---|
| シリコングリス 10g | 汎用的な潤滑や簡易的な放熱 |
| Thermal Grizzly(クマさん)のCPUグリス | 高い熱伝導を必要とするPCパーツの放熱 |
| シミオシ(CPUグリス) | PCメンテナンス用の定番放熱材 |
1. シリコングリス 10g
金属、プラスチック、ゴムなどの潤滑や、簡易的な放熱を目的として多目的に使用される大容量のグリスです。10gのパッケージは、家庭内の様々な箇所のメンテナンスに適した分量となっています。
2. Thermal Grizzly(クマさん)のCPUグリス
高い熱伝導性能を必要とするゲーミングPCや自作PCのCPU、GPUの放熱に使用される専用グリスです。熱によるパフォーマンス低下を防ぐために、パーツの表面に塗布して使用されます。
3. シミオシ(CPUグリス)
親和産業が提供する、PCパーツの放熱を目的とした国内ブランドのグリスです。CPUクーラーとCPUの間に塗布することで熱伝導を助け、精密機器の温度管理を行うために利用されます。
6. PC以外での「神」のような使い道
検証後、大量に余った100均グリス。PCに使うのは正直もう懲り懲りですが、家の中を見渡すと、これが意外なところで大活躍しました。
- キーキー鳴るドアの蝶番: ほんの少し塗るだけで、深夜のトイレも怖くないほど静かに。
- 固くなったアルミサッシ: 動きが劇的にスムーズになり、開閉のストレスがゼロに。
- 子供のミニ四駆: ギヤの異音が消え、心なしかスピードが上がった(気がする)。
結論として、100均シリコングリスは「PCパーツ」として見るより、「家中の不具合を110円で解決する魔法のペースト」として見るのが正解だと気づきました。
7. 結論:110円の「挑戦」が教えてくれた、道具選びの本当の価値

結局のところ、100均のシリコングリスは「安物買いの銭失い」なのでしょうか?
実際に深夜の絶望から救われた僕が出した結論は、「緊急時の応急処置としては120点、でも愛機へのラブレターとしては0点」という、少し複雑なものです。
110円という価格は、僕たちに「失敗してもいいから試してみよう」という勇気を与えてくれます。今回、僕がPCを復活させることができたのは、間違いなくダイソーやセリアという身近な存在があったからです。あの時、110円で手に入れたのは単なるグリスではなく、「明日もこのPCで作業ができる」という安心感でした。
しかし、その一方で、塗りづらさに四苦八苦し、指先をベタベタにしながら感じたのは、「高いものには、高いなりの理由がある」という至極真っ当な事実でした。Thermal Grizzlyやシミオシといったブランド品が提供しているのは、単なる冷却性能だけではありません。それは、「塗りやすさ」という作業効率であり、「数年経っても大丈夫」という長期的な信頼性なのです。
もしあなたが今、レジの前で110円のチューブを手に迷っているなら、こう考えてみてください。
- 「今すぐこの熱を何とかしたい!」という緊急事態なら、迷わず買いです。
- 「長く、大切に、最高の状態で使いたい」なら、Amazonでポチるのを待ちましょう。
そして、もしPCに使わなかったとしても、家中のギシギシ鳴るドアや動きの悪いサッシに塗ってみてください。110円で日常の小さなストレスが消えていく快感は、何物にも代えがたい体験になるはずです。
道具を使い分け、工夫し、時には失敗して苦笑いする。そんな試行錯誤のプロセスこそが、DIYや自作PCの本当の楽しさなのだと、僕は今回の「110円の挑戦」を通じて再確認しました。
あなたのPCライフ(そして家中のメンテナンスライフ)が、この小さなグリス一つで、今より少しだけ「滑らか」になることを願っています。